むかし、
「おまえの姿は、まるで山犬だ。山犬は山の中へ行って暮らしたらよいだろう。」
といいました。
利判は村人にていねいにおじぎをして、そのまま村をあとに山の方へと歩いて行きました。やがて、一すじの道も
するとむこうから、十四ばかりになる女の子が、やはり岩づたいに、小鳥のように身がるく
「やっぱり、わたしの考えたとおりだ。この人は貧しいけれど、
こういって、またもと来た方へ、
さきの女の子が、洞の中から顔を出して、うなずいて見せました。利判は
女の子はいいました。
「ここは、わたしと先生と二人だけの住居だけれど、今先生は、
それから女の子は、何か考えているようすでしたが、
「同じところに二人
といって、
「さあ、あなたはこのむこう側にいらっしゃい。わたしは、少しせまいけれど、こっちでいい。」
もう日が暮れたはずなのに、洞の中はふしぎに明るくて、そして、
「わたしは今、あなたの着物を
利判は
「さあこんどは、わたしが沐浴しますから、あなたは目をつぶっていらっしゃい。」
けれど利判は、女の子のことばにそむいて、そつと目をあけてみました。清水がきらきらとかがやいて波だっているばかり、何も見えませんでした、やがて、
「あなたは、わたしの言葉をかたく守らねばなりません。でないと、仙術はなかなか
といいました。利判は大そう
「ではこれから食事にしましょう。」
女の子は袂からとり出した木の葉を、いくつにもちぎって、
「さあ
と利判の前へならべました。それを食べてみますと、木の実を酒にひたしたような、ふしぎな味がしました。女の子は、たった一かけら口へ入れただけでした。
「もつと修業がつむと、何も食べずにいられるようになるのだが、わたしはまだ
といって、悲しそうな顔つきをしました。
食事がすむと、女の子と利判とは、屏風の両側へ別々に床をしいて寝ました。その寝床というのが、やはり女の子の袂から出た木の葉でした。
それから利判は、その洞の中で、幾年ともわからぬほど、長い間暮らしていました。いつまでたっても、女の子は十四ばかりの子どもの姿でした。そして利判も、年をとるということがありませんでした。毎日、少しばかりの木の葉を食べ、沐浴をしているうちに、身体は若葉のようにすがすがしく、心は水のようにすんで、洞の中にすわっていて、千里外のことが手にとるようにわかりました。
ある日のこと、女の子は利判にむかっていいました。
「いつぞやあなたにお話したわたしの先生が、修業を終わってもはやお帰りになりました。あなたは今日かぎりここを立ち去らなくてはなりません。」
そのとき、洞の口から、ちょろちょろと一匹の
言葉の意味は利判には分かりませんでした。
やがて女の子は、利判の方をふりむいて、
「これがわたしの先生です。お
利判はいいました。
「いやいや、たとえ姿は
そして利判は、ひざまづいて鼠を
「ああこれで安心しました。あなたのお心は、もはや鉄石よりもかたい。」
女の子は清らかな
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