作兵衛(さくべえ)甜瓜(まくわうり)    土田耕平

 作兵衛という男がありました。
 夏になって畑のまくわうりがじゅくしましたので、ある日のこと、みなとり集めて町へ売りに出かけました。
 作兵衛はまくわうりを車につけました。そして下男と二人で引いて行きました。
 朝の涼しいうちに家を出ましたが、町まではだいぶ道のりがありますので、とちゅうの野原にさしかかった(ころ)は、まひるの日光がジリジリと照りつけて来ました。
 「暑くなったな。ひとやすみしよう。」
と作兵衛は下男をかえりみていいますと、
 「ええ。御主人そうしましょう。」
と二人は車をそこへ引きすてて道ばたのこかげへ(こし)をおろしました。
 ひとやすみしているとたまらなくのどがかわいてきましたので、作兵衛は車の中から二つ三つうりを取り出して下男にも分けてやりました。
 二人はあまいうりの(かおり)をかぎながらにこやかに話しました。
 「御主人。今年はうりの値がよいから大もうけですね。」
 「お前に苦労してもらったかいが見えてありがたい。今夜は何かごちそうでもしよう。」
 とそこへ一人のおばあさんが通りかかりましたが、二人がうまそうにうりを食べているのを見て、
 「わたくしにもどうぞ一つ下さい。のどがかわいてたまりませんから。」
といいました。
 おばあさんの手足はあ《ヽ》か《ヽ》でまっくろになっており、着物はボロボロに破れておりました。
 作兵衛は一目見ていやなおばあさんだと思いました。その時作兵衛の心には慈悲(じひ)のかげがすっかり消えていました。だからおばあさんのたのみをすげなくしりぞけてしまいました。
 「これはおまえさんにあげるうりではないよ。」
 そばから下男も口をそえて、
 「うりがほしかったらおかねを持っておいで。」
といいました。
 おばあさんは二人のふしんせつをいかるようすもなく、
 「それでは種をいただかせて下さい。」
といって、二人が口からはき出したうりの種を一つぶ拾い取りました。そして土に()めて何かわからぬ言葉で一心に(いの)りはじめました。
 と見る間に種を埋めた土からボツリ青い芽が出て来ました。その芽はたちまちのびて葉をつけつるを持ち花が咲き出しました。やがて花が散ったと思うと、大きなあまそうなまくわうりがすずなりになっているのでした。
おばあさんはニヤリ二人の方をかえりみて、
 「おかげでたくさんなりました。さあおまえがたもお取りなさい。」
といいましたが、作兵衛も下男もあまりのふしぎに(おどろ)いて物言うこともできませんでした。
 「いらなければみなわたしがもらいますよ。」
とおばあさんは一つ残らずうりをもぎ取って、どこともなく行ってしまいました。
 作兵衛と下男は(ゆめ)からさめたように立ちあがりました。
 「今のおばあさんはなんだろう。」
 「ふしぎな目にあったものだ。」
と二人は考えこみながら車のそばへ行って見ると、一ぱい積んであったうりがすっかりなくなっていました。
 「ああ神ばつだ。むじひのむくいだ。」
と作兵衛はさけびました。二人はしおしおと空車を引いて家に帰りました。
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