およしと
およしは、毎週土曜日の学校かえりに、山 「さあ、ここへこうよ。」 といってえんがわ といいました。およしは爺のわきにならんで腰かけました。すると、おばさんが、そら豆の 「およしさん、よくきてくれたね。爺やは、およしさんが来てくれるのが、どんなにうれしいか知れないだぜ。」 とおばさんは、爺と二人を見くらべながらいいました。やがておばさんはあいさつして、内へ入って行きました。爺はやっぱりうつむけに新聞を読みふけったまま、 「およし、豆を食べろよ。」 といいました。「お爺さまは食べないかえ?」 「うん、おれも食べる。おかげで歯はじょうぶだ。」 夏のはじめのお日さまは、かんかんとまぶしくお庭の木や石を照らしていました。泉水のそばのとり小屋を見ると、いつものカナリヤがいないので、 「お爺さま、鳥はどうしてえ?」 「うん、 と気のない返事をして、新聞をポイとほうって、 「およし、 といいました。 「総理大臣は天子さまのお代りの方だろ、その方を殺すなんてどういうつもりかな……学校の先生さまは何か言ったかや?」 「殺すのはよくないが、政党《せいとう》もよくないって……」 「何、政党がよくないって、フンそうかも知れねえ。けれども 「わし等にはわからないわい、お爺。」 「わからない? そうともそうとも、まあいいや、豆でも食べてあそんで行け。」 二人はポリポリ音をさせながら、 「爺はな、もうながいきしないような気がするだ。」 きゅうに、こんなことを言い出しました。 「わしが死んだら、お と爺は言葉とはうらはらに、にこにこ顔でいいました。 「お爺さま、そんなこといっちゃ、いやえ。」 およしはそういうと 「うんうん、爺はまだ死になんかせん。総理さまより五つも若いんだもの。なあ、およし。」 およしは前だれで涙をふいて、うなずいて見せました。 その時青葉の間から、風が吹きまわしてきて、縁がわの上の新聞が泉水の方へパラパラとんで行きました。およしが拾いに行こうとすると、爺は、 「よいわよいわ、新聞なんか、もううっちゃっておけ。」 といいました。そして、おだやかな、仏さまのような目つきで |
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