おじいさんがなくなりますとき、三人のむすこをまくらもとへ呼んで、
「お前たち、
おじいさんをお墓へおさめて、はじめの晩は、いちばん上の兄さんが通夜に行く
「いそがしくて、
イワンはおとなしく
「そこにいるのは、そうりょうの兄だろうな。」
といいました。
「いいえ。おじいさん。イワンですよ。」
「おお、そうか。お前、その
イワンがまくらもとをさぐってみますと、馬の毛が一すじ指にさわりました。イワンは、つまみあげて、かくしへ入れておきました。
そのつぎの晩は、二番目の兄さんが、とまりに行く順番でした。
「わしもせわしくて、墓番などてきない。イワン、お前かわりに行けよ。」
「あいあい。」
イワンは、また兄さんのかわりにお墓へとまりに行きました。夜中ごろになると、地の中から、おじいさんの声がしました。
「そこにいるのは、二番むすこだろうな。」
「いいえ、イワンですよ。」
「おお、おお、イワンか。おまえ、まくらもとをさぐってごらん。」
イワンがまくらもとをさぐりますと、ゆうべと同じように、馬の毛が一すじ指にさわりました。イワンは、ひろって、かくしへ入れました。
三番目はイワンの番です。夜中ごろになると、また声がして、
「そこにいるのは、イワンか。それとも
「おじいさん、イワンですよ。」
「そうか。よく来てくれた、まくらもとをさぐってごらん。」
イワンは、また馬の毛を一すじひろいました。
「おまえは、
とおじいさんがいいました。
「じゃ、おじいさん、かえるよ。」
「ああ、よしよし。」
イワンは、おじいさんに別れて、家へかえりました。
そのころ、王さまの
「身分の高い低いは言わぬ。
こういうおふれを、国じゅうへお出しになりました。よい馬の持ち主、少しでも
イワンの兄さん二人は、
「えらいひょうばんだ。どんな勇士があらわれることか、ひとつ、見に行こうじゃないか。イワン、おまえはるすばんしておれ。」
「ぼくもつれて行っておくれ。ぼく、馬に乗って、塔の上へ飛んで見せるよ。」
といいました。
「フフッ。ばかものめが――」
といって、兄さんたち二人だけで出かけて行きました。イワンは、むっくり起きあがって、お家の
イワンは、ひらりと馬にまたがり、おひめさまの塔めがけて、かけてまいりました。塔のまわりは、見物の人たちが
そこへイワンの乗ったくりげの馬がかけつけました。イワンの馬は見物の人たちの頭の上を、乗りこえて、さっと塔をめがけて飛びました。高い塔のいちばん上の窓へもう五尺ほどというところで、おしいことに足がとどきませんでした。イワンは、
「よしよし、またあしただ。」
こういって、すばやく馬をひきかえしました。広っぱまで来ると、馬を乗りすてて、お家の中へ入って、
やがて、兄さんたち二人は、かえってきました。
「なんとすばらしいくりげだろう。」
「そして、あの騎士のみごとなことは。」
などと、今日見てきたことを話しあうのを、イワンは、暖炉のかげから、
「兄さん、その騎士は、ぼくににていなかったかい。」
といいました。
「フフフッ。ばかのいうこと。」
兄さんたちは、笑って相手にしませんでした。
つぎの日になりますと、イワンの兄さんたち二人は、
「お前、今日もるすいしておれよ。」
といって、また見物に出かけました。イワンは、兄さんたちのあとから、ひとり、
さて、塔のまわりには、今日も見物の人々が、身うごきもできぬほどおしかけておりました。いくたりもの騎士たちが、かわるがわる塔の窓をめがけて、馬をとばせましたけれど、とてもとても高い塔の中ほどにもとどくことはできませんでした。そこへイワンの馬が、かけて行きました。
「来たぞ来たぞ。きのうの勇士が。」
とみんな叫び声をあげました。イワンの馬は、ひといきに塔の窓をめがけてかけ、もう二尺ばかりというところで、おしいことにふみはずしてしまいました。
「よしよし、もう一日だ。」
イワンはこういって、急いで馬をひきかえしました。広っぱで、馬を乗りはなして、お家の中へ入ると、暖炉のそばへ行って横になりました。
やがて兄さんたち二人が、かえってきて、
「なんとすばらしい馬だろう。」
「きのうの馬もみごとだったが、きょうのは、いちだんと見まさりがした。
などというのを、イワンは、暖炉のかげで聞いて、
「ウフッ。‥兄さんたちのあきめくら!」
こういって笑いました。
つぎの日、兄さんたち二人は、また出かけようとして、
「イワン、今日は、おまえもつれて行ってやろうか。」
といいますと、イワンは首をふって、
「いいや。ぼく、ほうっておいておくれよ。」 といいました。兄さんたちの出かけたあとから、裏の広っぱへ行って、かくしの馬の毛を、今日はいちばん長いのを出しました。指にくるくるまいて輪にすると、目から、火花をちらし、鼻の穴から煙をむくむくはきながら、くりげの馬がかけてきました。それは、前の二つよりもはるかにみごとな馬でありました。イワンは、ひらりとまたがって、
「ハイヨウ。」
と、いせいよくかけ出しました。
塔のまわりに、よせかけていた人々は、
「そらそら、勇士が来たぞ。」
といって、イワンの姿を見て、どよめきました。イワンは、馬にひとむちあてると、目にもとまらぬ早さで、塔をめがけてかけました。そして、今日こそ、たしかに、塔の窓へ馬をかけ入ることができました。
窓の中には、おひめさまがひとり
その日、イワンの兄さんたち二人は、
「今日の勇士はとうとう、塔の窓へ乗りつけた。」
「おひめさまのむこぎみになることだろう、なんと
などといいながら家にかえってみますと、弟のイワンは、いつものように暖炉のそばにころがっていました。そして、片手でひたいをしっかりおさえていました。
「おまえ、どうした。」
「ぼく、
「そうか。いねむりでもして、暖炉のふちへぶっつけたのだろう。」
「そうじゃないよ。おひめさまの美しい手で打たれたのだ。」
「ばかもの。
兄さんは、そばへ行って、イワンの手をとりのけて見ますと、ひたいの傷口から金色の
それから一週間ばかりたちますと、おひめさまから、お
おひめさまは、お城の大広間へ若者たちをならべて、一人一人にお酒とさかずきをおあたえになりました。イワンは、うしろの方に小さくなっていましたが、おひめさまの目は、すぐにイワンのひたいの傷をお見つけになりました。おひめさまは、走りよって、イワンの手をおとりになって、お父さまの王さまの前へつれて行かれました。
「これが私のえらび出した人でございます。」
こう申し上げました。王さまは、イワンのぼんやりした顔つき、みすぼらしい姿をごらんになり、ひめの美しい姿と見くらべて、
おひめさまは、イワンの耳に口よせて、
「どうぞ、くりげの馬を。」
とおっしゃいました。
イワンは、かくしの中の馬の毛を三すじとも取り出して、くるりと輪にまきますと、目から火花をちらし、鼻の穴からむくむく煙をはきながら、三つのくりげがかけてきました。中でいちばんたくましい馬に、イワンがゆらりとまたがりますと、見る見るその顔かたちは、りりしくかがやきました。
「おお、そちにひめをあたえるぞよ。」
とおっしゃいました。
「して、なおここに立っている二とうのくりげはだれのものか。」
「わたくしの兄二人のものでございます。」
イワンは、こうお答え申し上げました。で、イワンの兄さん二人もさっそくおめしにあずかり、王さまの家来になりました。