遠い遠い海のはてに忘れ島という島がありました。この島にはふしぎなにおいぐさかいっぱいに茂っていて、そのにおいをかいだ人はだれでも
「わたしたちはいつどこからこの島へ来たのだろう。」こういううたがいを
ある晩のこと、月の光が明るく照りわたって、心地よいながめになりましたので、忘れ島の人々はそろってはまべに出ました。キラキラとかがやく波を見ながら、みんないっしょにうたいました。
明るい明るいお月さま
東を見ても 西見ても
光るは キラキラ波ばかり
いったいどうして わしたちは
こんな所へ 来たのやら
どこからどうして 来たのやら
東を見ても 西見ても
光るは キラキラ波ばかり
明るい明るいお月さま……
こうして、歌いつづけていますと、やがて夜中ごろ、一ぴきの白うさぎが、どこともなくヒョイとあらわれて皆のまえに立ちました。うさぎは両手にかかえて来たたくさんのかまをそこへ投げ出して、
「さあ、皆さん、このかまをあげますから、それで島じゅうのにおい草を
一同のものはびっくりしてうさぎのすがたを見守っていましたが、やがてひとりが口をひらいて、
「おまえさんはどこから来たのです。そして、このたくさんのかまをどこから持って来ました?」 と聞きました。
うさぎは、
「私はあの月の世界から来ました。お月さまがみんなの歌をお聞きになってあわれにおぼしめされたのです。さあ、このかまて島じゅうの草をかってしまえば、おまえさんがたの
うさぎの
人々は
「そうだ。私たちは難船してこの島へ流れついたのだ。家には親兄弟が待っているのだ。早く家へかえらなくてはいけない。」
こう考えついて、みんないっしょにいかだをくんで、海へ乗り出しました。そして、
忘れ島はもうにおい草がなくなったのだから、その後だれが流れついても故郷を忘れてしまうようなことはありませんでした。