ある時、はくしゃくは、むすこをよんで、
「これから、一年ひまをやるから、そのあいだに、どこぞへ行って、何かひとつ、よいことをおぼえて来るがよい。それができないようならおまえは、もうわしの子ではないぞ。」
といいました。
むすこは、家を出て行きました。そして、一年たって、かえって来ましたので、はくしゃくは、
「さて、お前は何を習ってきた。」
とたずねました。するとむすこは、
「お父さま、わたしは、犬のことばをおぼえてきました。」
と答えました。はくしゃくは、たいへん
「ばかものめ。もう一年、ひまをやるから、ちっと、人間らしいことをおぼえて来い。それができないようなら、こんどこそ、わしは、おまえの父親じゃないぞ。」
といいました。
むすこは、出かけて行きました。やがて、一年たつと、のこのこ帰ってきましたので、はくしゃくは、
「さて、こんどは、何を習ってきた。」
とたずねますと、むすこは、答えていいました。
「お父さま、わたくしは、かえるのことばを、習ってきました。」
はくしゃくは、ためいきをついて、
「やれ、なんという事だ。わしはもう一年だけひまをやる。早くどこぞと、行って来い。」といいました。
一年たつと、むすこはのこのこ帰ってきました。はくしゃくは待ちかまえていて、
「こんどは、何をおぼえてきた。」
とたずねました。むすこは、
「お父さま、わたしは、はとのことばをおぼえてきました。」 と答えました。
はくしゃくは、とびらをピシャンとしめてしまいました。それっきり
仕方ない、むすこは、ひとりとぼとぼ、足のむく方へ歩いて行きました。
やがて、日の
「あそこに、ほら穴がある。ほらのなかには山犬がたくさんいて、旅の人を、みんな食いころしてしまう。それでもかまわぬなら、行ってとまるがよい。」
といいました。
むすこはほら穴のなかへ入って行きました。そこには、番人のいうたとおり、たくさんの山犬どもが、うろうろしていました。
むすこは、犬のことばが、よくわかりましたので、いちいち、あいさつしました。山犬どもは、ウォーウォーほえるだけで、むすこに、なんの
よくあさ、むすこが、平気でほらの中から出てきましたので、番人どもはおどろいてしまいました。むすこのいうには、
「あのほらのおくには、
といって、また、ほらの中へ、入って行きました。おくの方の
むすこは、宝物を、みんな袋の中へ入れて、持ちかえり、番人にわたしておいて、お城をあとに、またあてもない旅をつづけて行きました。
むすこは、だんだん、旅をつづけて、ある日のこと、
ちょうどその時のこと、ローマでは、
それを見た大僧正たちは、これこそ、神のつかわされた、新法王であると、みなそでをつらねて、若者の前にひざまづきました。この若者は、さきにお話したはくしゃくのむすこなので、ローマ法王
はくしゃくのむすこは、もじもじこまったようすをしていますと、両肩にとまった銀色のはとが、
「あなたのひたいには法王になられる
とささやきました。はとのささやきは、僧正たちの耳には、ただククククときこえるだけでしたが、むすこには、そのことばが、よく聞きわけられました。
で、はとのいうとおり大僧正たちにあがめたてまつられて、りつぱな殿堂の中へ、入って行きました。二わのはとは、両肩にとまって、銀色の
むすこは、法王の
その同じ日のこと、むすこのお父さまのはくしゃくは、