そのうちに、多助さんは、だんだん年がよって来ました。
多助じいさんは、そのときになって、はじめてこうかいしました。かいなくすぎた、じぶんの一生をかえりみました。
「わしはもう長く生きてはいない。なにか一つなりと、村のためになることをして死にたい。
こう考えますと、おもたくこわばったからだが、急に軽くなったような気がしました。
多助さんの村は、たいそう
そこへよぼよぼななまけものの多助さんが、やって来たのですから、みんなびっくりしました。「何をしに来たのだろう。」「気でもちがったのではあるまいか。」
こんなことを、ささやきあいました。多助さんは、人々の前へ行って、
「何か仕事をさせて下さい。」「くわをかして下さい。」
などと、頭をさげてたのみましたけれど、だれしも、けげんな顔をして、よう相手になりませんでした。
多助さんは、つえにすがって、あちこち歩いておりますうちに、すっかりこんがつきてしまいました。ようやくのこと、森の中へはいこむとともにフウッと気がとおくなってしまいました。
「コレ、多助よ。」
とよぶ声に、多助さんは目をあけました。そこには、多助さんのお父さまが立っておられました。もう長い年月すぎて、おもかげさえうすれていたお父さまの
「ああ、お父さま。」 と、うめくようにいって、多助さんは起きあがりました。
「よい。よい。お前の心はよくわかっておる。」 とお父さまは、おっしゃって小わきにかかえていた小さなつぼを、多助さんに
「このつぼのなかをさぐれば、なんでもお前のねがいごとがかなう。しかし用がすんでもこのつぼを他人にわたしてはいけない。」
こういって、お父さまのすがたは消えてしまいました。
多助さんは、つぼをかかえて立ちあがりました。そして、またのらの方へひきかえしてまいりました。ふしぎにも、足かるがると、思いのままに、歩くことも、走ることさえもできました。
「わしは、ほんとに一生のあいだ、何もしなかった。ただ一度お父さまについて、
そうすると、たちまち
そうしているうちにも、田畑のみのりは、いよいよ目立ってきました。きれいな水が、こんこんとわいてきました。そればかりでなく、ふるびいたんでいた家々がどれもこれも、どっしりとしたあたらしいかまえになりました。
村じゅうに、山じゅうに、よろこびの声が
「皆さん。何かまだ
と多助じいさんはしゃがれ声をはりあげました。
「なんの、この上の
村人たちは、そのとき多助さんの
「では
こういって、多助さんはつぼをだいたまま安らかに目をとじました。
村人たちは、多助さんのなきがらを、神とあがめて、ていねいにほうむりました。けれどもつぼだけは、別にとりのこしてしまっておきました。このようなつぼはなにか
二年三年は、ことなくすぎました。しかし村人たちは、毎年田畑のみのりがよく、
いったん