かきの木の枝いっぱいすずなりになっていた
「うまそうだな。ぼく食べてもいいの?」
「まあ、ほんにおいしそうなこと。早く食べないと今に落ちてしまうわ。」
こんな声がしますので、何かとおもって目をあけて見ますと、かたわらの枝に親子のからすがとまっていました。
「からすさん。おいしいものって、何かあるのかね。」
と聞きますと、
「ばかだな、こいつは。おまえを食べようといってるのに……」
と、子がらすは、目をくるくるさせながらいいました。
守りがきはすっかり目がさめてしまいました。
「いけないいけない。わしは大事の守りがきだ。」
とまっかな顔で子がらすをにらみつけました。
親がらすが、
「ああ、これは守り神さまだったね。ぼうや、食べてはならないよ。」
「なぜ。」
と子がらすは
「これは食べずにおいて、またたくさんのかきがなるようにおねがいするのだよ、来年も。」
「そう。来年って遠いの?」
「もうすぐだよ。冬になってそれから来年だよ。」
親がらすが
それからまたいくにちかたったころ、
「やあ!」
と、とんきょうな声におどろかされて、何ごとかと見ますと、いがぐりあたまのわんぱくそうな子供が、木の下からあおむいていました。子供はつと石ころをひろって、こずえめがけて投げつけようと身がまえましたから、
「待てまて、わしは守りがきだぞ。」
といいましたが、ことばの終らぬうちに石つぶてはヒュウと飛んできて、守り柿の一、二
「わしは守りがきだぞ。」
ともう一度いいましたが、子供はかまわずまた石をひろいました。
「これはいけない。からすにもおとっている。」
と守りがきがまっかになっているところへ、たちまち第二の石つぶてが来ましたが、今度は
「それ見ろ。」
と勝ちほこった気持ちでいますと、とつぜんはげしいめまいがして、世界がまっくらになりました。ようやくわれにかえった守りがきは、
「とうとうやられたか。」
とおもいましたが、目をあいて見れば別に変わったこともありません。
さては石つぶてが枝を打ったのだなとさとりました。子供はと見ますと、まだこちらを見上げていますので、
「やっこさん、なかなかこんきがよいわい。」
とおもいました。子供は、
「おお寒い。」
と
「これはたまらぬ。」
と守りがきは、小さくなって目をとじました。
それから寒い日がいく日もつづきました。夜は星空がきらきらとさえ、朝は真白く
その時目にもとまらぬほどの早さで、柿の木のみきをかけのぼって来たものがあります。それは
「ねこさん、いったいどうしたというのかね。」
とことばをかけますと、ねこは守りがきを一目見て、フフンと
ねこはやがてせのびをして、前足のつめでバリバリと
「ねこさん、そんなつまらぬまねはやめな。
と守りがきがいいますと、ねこはまた鼻のさきでフフンといったきり、見むこうともしませんでした。
「なんと、ねこさん、わしはずいぶんうまそうじゃないか。食べたくはないかね。」
とからかい半分にいいますと、ねこは長いひげをピクピクうごかして、
「こう見えてもわがはいの食べものは、もうちっと上等なんだ。つまらぬことをいってもらうまい。」
と、たいそういばった顔つきで、かきの木から下りてしまいました。
ねこなんていばるばかりで、何ののうもありはしない。いつぞやのわんぱく
「お日さま、もはや私のつとめは終わりました。」 と守りがきはいいました。つぎの朝、守りがきの姿はもうこずえに見えませんでした。