うさぎたち            土田耕平
  
 うさぎなかまがたくさんよりあっまって野原で遊んでおりました。
 もうお日さまが(しず)んであたりはうす暗くなって来ましたが、やがてお月さまの出るのを待って、うさぎたちはまだなかなか家へかえろうとはしませんでした。長い耳をふりたてておどったりはねたり、みんな()かれさわいでおりました。
 その時なかまのひとりが、
「オイ、あれをごらんよ。」
といいました。見ると、すぐむこうの(おか)の上に、一人の猟師(りょうし)がうずくまって、ねらいうちのかまえをしております。うさぎたちの(おどろ)いたこと、
「それ()げろ。」
と、声よりも早くかけ出しました。みんなむちゅうで逃げて来て、ようようささやぶのかげでひとかたまりになりました。
「だれかやられはしないか。」
と、うさぎたちはぶるぶるふるえながら顔を見合わせました。そして、ヒィ、フウ、ミイと、つぎつぎに数えてみますと、ひとり数がたりません。
「やられたのはだれだ?」
「トム公だ。」
「そうだ。トム公だ。」
 うさぎたちは悲しそうにさけびました。トム公というのはまだ小うさぎで、このごろ病気にかかっていますので、みなのように走ることのできないうさぎです。
「かわいそうなことをしたなあ。」
「なぜおいらは逃げて来たんだろう。」
「でも鉄砲(てっぽう)を向けられてはしまつにおえんからな。」
「ああどうしたらよかろう。」
 うさぎたちはとほうにくれてしまいました。みんなおくびょうではありますが、心のすなおな友だち思いのなかまです。このトム公を()きざりしてしまうことはできませんでした。やがてのこと、うさ吉たちはみなぞろぞろと、もとの野原までひきかえしてまいりました。
 草の中へはいかくれるようにして、おそるおそる見すかしますと、ちょうどお月さまが東の空へあらわれましたので、むこうの岡がはっきりと()きあがって見えます。
「オイ、いるよいるよ。」
「トム公が猟師めをふまえているぞ。」
「へんだな。いったいどうしたんだろう。」
 うさぎたちはヒソヒソささやきあいました。岡の上には、さっきの猟師が同じようにねらいうちのかまえではいつくばっている。トム公はその背中(せなか)意気(いき)ようようとまたがっているのです。
 小うさぎ――病気でかけることさえできない小うさぎが、猟師をとりおさえたなどということが何百万年この方うさぎの歴史(れきし)に一度だってあったことでしょうか。うさぎたちはただもうびっくりしてしまいました。
「オーィ、トム公。」
 うさぎたちは声をそろえて呼びかけました。
 トム公は、こちらをふりかえって、
「ヤア、みんなこっちへ来な。」とうれしそうにいいました。
「行ってもだいじょうぶか。」
「だいじょうぶとも、早く来な。」
「でも鉄砲がこっちへ向いているぜ。」
 するとトム公は、
「なに、こんなもの。」
といいながらポンと足げにしてしまいました。うさぎたちは、
「ワァー」 と、ときの声をあげて岡の上へかけあがりました。
 おくびょうなうさぎたちは大きなまちがいをしていたのです。猟師と思ったのは人の形をした岩で、鉄砲は()れ枝一本にすぎなかったのであります。これには一同あいた口がふさがりませんでした。
 その時トム公は岩の上からとびおりて、
「みんなよく来てくれた。(ぼく)を見すてないでくれて、こんなうれしいことはない。」 といって頭をさげました。うさぎたちはみんなきげんをなおしてにこにこ顔になりました。お月さまもまんまるな顔をにこにこしておられました。

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