くつやさんと一寸法師(いっすんぼうし)   土田耕平

 貧乏(びんぼう)なくつやさんがありました。毎日、せいだして働くけれど、いつまでたっても、貧乏でした。
 ある日のこと、もう一そくのくつをこしらえるだけの(かわ)しか、なくなってしまいました。くつやさんは、その一そくぶんの革を、ていねいにたって、仕事台の上へのせて、
「これは、あすの仕事だ。」
といって、寝床(ねどこ)へ入って寝ました。
 つぎの朝のこと、くつやさんは、目をさまして、仕事台の前へ(すわ)ってみて、(おどろ)きました。ゆうべ、たったままにしておいた革がちゃんと、一そくのくつにできあがっているのでした。くつを手にとってみて、くつやさんは、二度びっくりしました。どんなじょうずな職人(しょくにん)だって、こうはできまいと思うほど、みごとな出来でありました。
 ちょうどそこへ、お客さんがきて、
「これは、わしの気にいった。今どき、こんなよいくつは、なかなか手に入るものではない。」 といって、よぶんのお金をはらって行きました。
 くつやさんは、そのお金で、二そくぶんの革を、しいれることができました。その晩も革をいつものように、たつだけたっておいて、やすみました。そして、つぎの朝起きで仕事台に向かいますと、また二そくのくつがちゃんと、できあがっていました。
 くつやさんは、その二そくのくつを売りますと、お客さんは、またよぶんのお金をはらって行きました。くつやさんはそのお金で、こんどは、四そくぶんの革を、しいれました。晩に革をたっておいて寝ますと、つぎの朝は、もうりつぱなくつができあがっているのでした。毎日、毎晩、そんなふうにして、思いのほかに、くつがよけいできあがりますので、貧乏だったくつやさんは、いつのまにか、お金もちになりました。
 もう年の暮れのことでした。くつやさんのおかみさんは、
「おかげで、今年は、らくらく年が()せるよ。それにしても、いったいだれだろう。
毎晩来て、お前さんの仕事をすけてくれるのは。」
といいますと、
「ふしぎなこともあるものさ。今夜は、寝ずにいて、だれだか見あてよう。」
といって、仕事場へあかりをかんかんつけたままにしておいて、くつやさんとおかみさんは、次の()へ行って、戸のふし穴から、そっとのぞいていました。
 すると、夜中じぶんに、どこからともなく、ひょいととびだしてきたのは、はだかの一寸法師(いっすんぼうし)でした。一寸法師は、目をぱちつかせて、
   ホイ これはあかるいな
   おれにゃ あかりは
   不要(ふよう)だけれど
   つけたあかりは
   消しもなるまい ホイ
といいながら、仕事台の前へ行き、そこにいっぱいたってある革をならべて、細い指をたくみに動かしました。と、たちまち、見るかぎりの革は、りっぱなくつにでき上がりました。一寸法師は立ち上がって、片足をたかくもちあげたと思うと、どこともなく見えなくなってしまいました。
 くつやさんとおかみさんとは、しばらく、あいた口がふさがりませんでした。
「ああ、なんとすばしっこいやつだろう。そうして、この寒い夜中に、まっぱだかで。」
「ほんとに、おどろいてしまったね。でもなにかお礼をしなくちゃ、気がすまないが――こうしてはどう? わたしが、小さな帽子(ぼうし)とシャツとズボンをしたてるから、あなたが、小さなくつをしたてで、お年越(としこ)しの晩におしんもつということにしたら――」
「ウム。それはいい。」
とくつやさん夫婦(ふうふ)は、うなづきあいました。
 さて、お年越しの晩になりましたので、その晩は、仕事台の上へ、革のかわりに、くつやさん夫婦が、(ねん)がけて作り上げた品々をならべておきました。
 夜中じぶんになると、一寸法師がやってきました。一寸法師は、仕事台の上にとびあがり、台の上のずきんをかぶり、シャツを着、ズボンをはき、くつをはき、
   あかいずきんに 青のくつ
   なんときれいな 子になった
   これでくつやが つとまろか
とうたいました。
 その晩かぎり、一寸法師は来なくなりました。くつやさんは、ひさしぶりで、自分の手でくつをこしらえてみましたところ、(はり)をさす、()う、たたく、と面白(おもしろ)いほど手が早くうごいて、一寸法師がつくったと、ちっともかわりない、みごとなくつができ上りました。その後、くつやさんは、ますますしあわせに()らしました。

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