共命鳥(ぐみょうちょう)            土田耕平

  共命鳥というのは、頭の二 ある鳥です。一つ胴体(どうたい)に、頭が二つ()いているので、ずいぶん可笑(おか)しな恰好(かっこう)をしていました。その代わりなかなか都合(つごう)のいいことがあります。
 一方の頭が長く首をのばして木の実をついばんでいる時、一方の頭は地べたを()っている虫けらを()らえることができます。また一方が歌をうたっている時、一方は勝手(かって)に水を()むことができます。だから、二つの頭が(たがい)にもの(あらそ)いでもしない(かぎ)りは、共命鳥はいつも楽しく日をおくることができたのです。
 ある日のこと、共命鳥は、野原の道をとぼとぼ歩いていました。道のわかれ目へ来たとき、右の頭がむこうの椰子(やし)の実に目をつけて、「こっちへ行こう。」と()って、右手の道に向きました。すると、左の頭が、
(ぼく)はこっちの方へ行く。」と云って、左手の道に向きました。これは、むこうのマトウカという草に目をつけたのです。
「オイ。僕らのからだは一つきりないから、二所(ふたところ)へ行くことはできないぜ。」と右の頭が云いますと、
「だから、君はわがままを云わずと、僕の云うとおりにしたまえ。」
と左の頭が云いました。
「そう云う君こそ、我ままではないか。僕が始め右へ行こうと云うのに、君は左へ行くというのだから。」
「けれど、この道は、左が本道だぜ。(はば)が広いのを見たまえ。」
「そんなことは、どうでもよい。僕はあの椰子の実を()しいのだ。」
「僕はあのマトウカが食べたいのだ。僕はどうしてもこっちへ行くよ。」
 と二つの頭は、争いを始めました。その少し前から、右の頭の方は大そう眠気(ねむけ)がさしていましたが、その時もうたまらなくなって、とうとう争いの中途(ちゅうと)(ねむ)ってしまいました。しばらくして、目をさますと、からだ中ぷんぷんぷんにおっています。それはマトウカのにおいでした。
「君はマトウカを食べたね。」と右の頭が云いました。
「むろん食べたよ。」と左の頭が答えました。
「じゃ、やっぱり、君は勝手(かって)に左の道を来たんだね。」
「そうだよ。」
「あの時僕は右の方へ行きたいと云ったのを、君は聞かなかったか。」
「それは聞いたよ。」
「では、どうしてこっちへ来たのか。」
「ああうるさいね。僕は眠たくなったよ。」と今度は、左の頭が争いなかばで眠ってしまいました。
 さあ、右の頭は、(はら)が立ってたまりません。どうしてくれようかと考えているところへ、一匹の(きつね)が来ましたので、
「もしもし。」と呼びかけました。
「狐さん。この眠っている頭を()みとって下さい。わしは此奴(こやつ)と一しょに生きているのがつくづく(いや)になりました。」
 狐は、にやり笑って、
「それは何よりの御馳走(ごちそう)だ。」と云いながら、眠っている左の頭を、(ただ)一口に噛み取ってしまいました。
 右の頭は、にくい相手がなくなりましたので、ヤレ(うれ)しやと思っていると、狐は、「今度は、おまえの番だ。」と云いながら、()びかかって来ました。
「いえ、私は御免(ごめん)です。」と右の頭は、あわてて逃げ出しましたが、たちまち、狐に()らえられてしまいました。そこで、とうとう共命鳥は、まったく狐の餌食(えじき)になってしまいました。

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