月の夜に 土田耕平
お月さまがまんまろく晴れわたった晩のこと、野原ではたくさんの獣たちが一しょに集まって、おどったりはねたりしていました。その中で熊は一ばん力もつよいし、からだも大きいし、また年上でもありましたから、仲間中の総大将でした。小高い岡の上に立って、みんなの騒ぎをながめていましたが、やがて大きな声で、
「さあさあ、おどりは止めた、止めた。」と云いました。
「こんどは智恵くらべだ。みんなこちらへおいで。」
獣たちは、熊の声がかかると一しょに、急にしずかになって、皆かしこまった顔つきで、岡の下へ寄ってきました。
熊はたくましい前足をずっと伸ばして、空のお月さまを指さしました。
「みんな、ごらん。あのお月さまを。何とみごとな光ではないか。まんまろく豊かに満ちわたっている。」
獣たちはおのおの首をもたげて、空をあおぎました。
「ところでおまへたちはどう考えるな。お月さまがあのようにうつくしい光を放って居る理由を。一たい何のために、お月さまは照りかがやくのであろう。」
熊はこう云って、獣たちを見まわしました。
暫くの間、みんな黙って考えこんでいましたが、第一番に狐が立ちあがって、
「わたしの考えでは、お月さまは妬み心から、あのように美しい光を放って居られるのです。」と云いました。
「それはまたどうしたわけかな。」と熊が聞きますと、狐は鼻をうごめかして、
「それは云わずと知れたこと、私の尻尾がふさふさとうつくしいので、お月さまはこれをうらやんで居ります。」と云いました。
すると鹿が立ちあがって、
「いやいや、狐君の尻尾より、わしの角の方がうつくしいぜ。お月さまはわしの角を羨んで居るのです。」と云いました。
その時横あいから、猿がキャンキャンと大きな声で、
「鹿君の云うことも、狐君の云うことも大違いだ。お月さまがお照しになるのは皆わたしのためだ。わたしが毎晩、木の実をとりに外を出歩く時、石につまずかぬように注意して下さるのだ。」と云いました。
すると狼が、
「いやいや、お月さまは猿公のためではないわ。わしが森の中を歩いて餌ものをさがす時、行手を照して下さるのだ。」と云いました。
みんな自分勝手のことを云ってしまった後で、兎が云いました。
「私は月の宮へ行ったこともあるから、よく知っている。お月さまがお照しになるのは、誰ひとりのためでない。みんなのためだ。わたしたちみんなを愛して下さるのだ。」
その時熊は手をうって、
「そうだそうだ、わしは兎の考えに賛成だ。」と云いました。
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