山おくに一匹のお猿さんが住んでいました。ある日のこと、木の下でひる
「おい、あのざまをごらんよ。親の
「すぐとなりの山にかたきの
お猿さんは、じぶんのお母さんがとなり山の虎に
おもいがけなく四十雀の口から親の
「おいおい。あれをごらんよ。なんとらんぼうなやつだろう。」
「そうさ、
これを聞いて、お猿さんはなるほどと思いました。ふと、むこうを見ると、一匹の
「もしもし狼さん。」
「なんだ。」
「わたしは、これから親のかたきうちにまいるのでございます。どうぞ助太刀をして下さいまし。あなたは、大そう、お強そうに見えます。」
「おれは
こういう勇ましいことばですから、お猿さんは、大そうたのもしく思い、狼の耳へ口をよせて、
「かたきというのは、このとなり山に住んでいる虎のやつでございます。」と
虎ときいて、狼はブルブルふるえ出し、前足で
「あ、あいたたた。おれは腹がいたんで来たぞ。とても
こう云って、こそこそ
お猿さんが、ぼんやり立っていますと、そこへ大きな
「お猿さん。君は、大そう、しんぱい顔をしているが、どうしたんだね。」
「ハイ、わたしは、これから、かたきうちに行かなくてはなりませんので。」
「かたきうちなら、助太刀をしてあげよう。あいては誰だね。
「いいえ、あの虎公です。」
「ヱッ。とんでもないことをいう人だ。
お猿さんはしかたなく、山の中をあちこち歩きまわって、行きあう
お猿さんが、しょんぼり立っているところへ、一ぴきの
「お猿さん、君は虎を
こう云つて兎は森の中へお猿さんをつれ込みました。兎とお猿さんは、だんだん森のおくへ入って行きました。谷川の岸へ出たとき、兎はお猿さんをそこへすわらせて、「ここでゆっくり話しましょう。」と云いました。
「お猿さん。おまえはどうしても虎公を討つつもりかえ?」
「ええ、どうしても、あいつを討たなくてはなりません。親のかたきですもの。」
「それなら、わたしがいいことを教えてあげよう。助太刀などたのまずに虎公が討ちとれるように。」
「わたし一人であの虎公が討てましょうか。」
「討てますとも。まあ。しばらくわしのいうことを、お聞きなさい。」
こう云って兎は川岸を
「ここに一ぱい石ころがおちて居るから、これで石なげのけいこをするのです。まずあの木をねらって、なげつけてごらんなさい。」と二三
お猿さんには、兎がなぜ石なげのけいこをすすめるのかわかりませんでしたが、とにかく
兎はそれを見て、
「まだまだそんなことではいけない。なげる石が一つだって、はずれるようではいけない。まあ二三日けいこしてごらんなさい。」と云いました。
お猿さんは、
すると兎は、杉の木の
「こんどは、この中へあてるのだよ。」と云いました。
的が小さくなったから、前よりはむづかしい。けれども、お猿さんの一しんで、十日目ころには、思いのままにそのまるの中へ投げあてるようになりました。
そうすると兎は、その円のなかへ、虎の目ほどの小さい円をかいて、
「さあ、この中へ石があたるようになれば、かたき討はすんだようなものだ。」と云いました。
お猿さんは、
これを見て兎は、
「もう大丈夫です。これからすぐ虎公のところへ行きましょう。」とお猿さんに石ころを二つ持たせて、虎のすんでいるとなりの山へ出かけました。
虎のすみかへ近づいたとき、うさぎはお猿さんに向かって、
「わしが虎公をつれ出してくるから、おまえさんは、この木の上へのぼっておいでなさい。そして虎公が下を通りかかったら、二つの石を両方の
お猿さんは木の上へのぼって、今かいまかと待ちかまえていました。しばらくたつと、むかうのやぶの中から、うさぎと一しょに虎が出てきました。
お猿さんは、虎が木の下へとおりかかった時、大きな声で「待て」とよびとめました。そして虎がおどろいて見上げるところを、すかさず、石をなげつけました。二つ続けてなげた石で両方の
お猿さんは、うさぎの手をとり、
「ありがとう。おまえさんのおかげで
「お猿さん、ばんざい。」とさけびました。