おお寒こ寒
山から
とんでくる……
冬のさむい
「おばあさん、小僧がなぜ山からとんでくるの。」
三郎は、今またおばあさんが口ずさんでいるのをきいて、こう
「山は寒うなっても、こたつもなければお家もない。それでとんでくるのだろうよ。」
おばあさんは手に
「小僧ってお寺の小僧かい。」
「何にお寺なものか、お寺ならお
「おばあさんもないの。」
「ああ、おばあさんもないのだよ。」
「それで小僧は
「着物くらいはきているだろうよ。」
「
「そんなことは知らないよ。
木の葉の衣ってどんなものだろうと、三郎は
「小僧は山からとんできてどうするの。」
「人の家の門へ立って、モシモシ火にあたらせておくんなさい、なんて云うのだろう。」
「そして、火にあたらせてもらうの。」
「いいえ、火になんぞあたれない。」
「なぜ。」
「小僧のいうことは、
三郎はそんな話をきくと、気味がわるくなりました。頭を青くすりこくった、赤はだしの小僧のすがたが、目に見えるようにおもいました。おばあさんは、やさしい
「どれどれ、一つお
と云いながら、縫物をわきへよせました。そして、こたつの火をつぎたして、その上へ
三郎は大人になって、東京のにぎやかな町なかでくらすようになりました。けれど毎年冬になると、大寒小寒の唄をおもい出し、おばあさんを思い出しするのでありました。幼い三郎がかさねがさね、問いたずねるのを、少しもうるさがることなく、しんせつに答えて下されたおばあさんを、どんなにかなつかしくおもいましたことでしょう。