(きつね)啄木鳥(きつつき)            土田耕平


 (かし)の木の上に、啄木鳥が()をつくって、卵を三つ生みました。そして、三つの(ひな)をかえしました。
 ある晩のこと、狐がやってきて、トントンと、樫の木の根もとを、尻尾(しっぽ)でたたいて、
「啄木鳥さんちょっと下りておいで。いい話があるから。」
()いました。
 啄木鳥は答えて、
「狐さん。わたしは、大事な大事なヒナを三つ()いているのですよ。」
といいました。
「そんなら、一つのヒナっ子を、なげてよこしな。わしがかじ屋にしこんでやるから。」
と狐が云いました。啄木鳥は、一つの雛を投げてやりますと、狐は、あかい(した)をペロリ出して、小さな雛っ子を、まるのみにしてしまいました。
 そのつぎの晩、狐はまた、樫の木の根もとへやってきました。トントンと尻尾でたたいて、
「啄木鳥さん、ちょっと下りておいで。いい話があるから。」
といいました。
「狐さん、わたしは、大事な大事な雛を、二つ抱いていますよ。」
と啄木鳥が答えました。
「そんなら、その雛っ子を一つなげてよこしな。靴屋(くつや)にしこんでやるから。」
と狐が云いました。啄木鳥は、雛を一つなげてやりました。狐はまたペロリ食べてしまいました。
 その次の晩また狐はやって来て、樫の根もとをトントンとたたいて、
「啄木鳥さん、ちょっと下りておいで。いい話があるから。」
 啄木鳥は、
「わたしは、大事な大事な雛を一つ抱いていますよ。」
と云いました。
「その雛つ子を、なげてよこしな。洋服屋にしこんでやるから。」
と狐が云いました。
 啄木鳥は、一つのこった雛を、なげてやりますと、狐は、ペロリ食べてしまいました。
 次の晩に、狐はまたのこのこやってきました。トントン尻尾で樫の木をたたいて、
「啄木鳥さん、ちょっと下りておいで。いい話があるから。」
と云いました。
 啄木鳥は、
「狐さん、いったい、どんないい話があるのですか。」
と云って、木の上からパッととび下りました。狐は、
「ヤイ、馬鹿(ばか)な啄木鳥め、お前の雛っ子は、みんなおれの(はら)の中に入っている。こんどはお前のばんだ。」
と云って、大口あいて笑いました。啄木鳥は、(おこ)ったのなんの、(のみ)のようなするどいくちばしで、狐のお(なか)をくいやぶりました。すると中から三つの雛がピョンピョン勢いよくとび出しました。啄木鳥のお母さんは、おおよろこび。そして、ずるい狐めは、死んでしまいました。

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