森の中のみちを、山猫が歩いて行きますと、一匹の狐に出あいました。
「狐は、大そうかしこいそうだ。」
山猫は、こう考えましたので、道ばたへよけて、おじぎをして、
「こんにちは、ごきげんいかがですか。ふけいきの世の中になりましたが、あなたのお暮らしはいかがですか。」
と、あいさつしました。
すると、狐は、いばりくさって、
「なんだ、
山猫は、びくびくもので、
「はい、わたくしにできることは、もう一つございます。」
と云いました。
「なに、もう一つできるって。どんなことだ。」
「犬においかけられたとき、木の上へにげのぼることです。」
狐は、カラカラ笑って、
「なんだ、そんなことか。おれさまなんぞは、できることが、百以上もあるぞ。その上に、みごとな
と長い
「この中には、うまい考えが、一ぱいつめこんである。なんの、犬をおっぱらう
といいました。
そのとき、森の向こうから、けたたましいこえがして、犬を四五匹つれた猟夫が、あらわれました。山猫は、さっと、かたわらの木の上へとびあがりました。
狐は、山猫のあとから、つづいて木の上へはい上ろうとしました。が、ずるずるとすべりおってしまいました。
山猫は、
「狐さん、はやく、
とさけびましたが、狐は、ただうろうろしているばかりでした。たちまち、犬どもが走ってきて、狐をかみころしてしまいました。
山猫は、木の上から、このありさまを見て、
「なんですねえ、狐さん、あなたは、おできになることが百もあるというのに、なに一つしでかさない。そして、智恵袋だって、この場になって、なんの役にも立ちはしない。わたしは、たった一つ、木にのぼることができたばかりに、命びろいをしましたよ。」
と言いました。