七つの(しずく)   土田耕平
   

 山の岩のあいだから、ぽたりぽたりと雫がたれていました。
「そら一たらし、コロコロコロ。」
「そら二たらし、チロチロチロ。」
 それは、こおろぎの耳でなくてはとても聞きわけられないほどの、小さな小さな(さけ)び声をあげながら、雫は一たらしずつ岩の問から()け出して行きました。
 小さな雫がいくつもいくつもよりあっまって、川となり()となり、やがて大川となって、ごうごうとうずまきながら、はてしない海へ流れこんで行きました。けれども、山の岩のあいだからは、あいかわらず小さな雫が、小さな小さな叫び声をあげながら、一たらしずつ落ちていました。
「そら一たらし、コロコロコロ。」
「そら二たらし、チロチロチロ。」
 深く(しげ)った(すぎ)の木の間を()れて、お日さまの光が一すじさしてきました。雫のからだは金色にきらめいて、「お日さま、こんにちは。」とあいさつしました。けれど、お日さまの返事をまつまもなく、雫は岩のあいだから落ちてしまいました。お日さまの光が、きらきらきらとかがやくまに、雫はもう七つ目のが、岩のあいだから生まれていました。お日さまは、また杉の木の間から、空へかえってしまいました。
 お日さまの光を知った七つの雫は、いつまでもその時の喜びを忘れませんでした。
「ぼくらのからだは金色になったんだ。見たまえ。ぴかぴか光っているだろう。」
 こうほこらしげに云ってはあたりを見まわすのでした。しかし、実際(じっさい)はもう七つの雫も他の千万の雫も、よそめには何のかわりもなくなっていました。みんな一つになって、大きな川の流れがごうごうとうずまきながら、海へむかって走っていました。

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