(うそ)            土田耕平


 意地(いじ)のわるい、いばりくさった(からす)がありました。近くに住んでいる白鳥が、卵を産んだのを見て、やにわに、うばい去ろうとしました。
 高い木の上から、この様子を見ていた(ふくろう)は、(わし)大王の御殿へ飛んで行きました。
「申しあげます。鴉めが、白鳥をいじめております。」
 鷲大王は、四天王の百舌鳥(もず)をつかわして、鴉を()しとることにしました。百舌鳥は、矢のような速さで飛んでゆきました。鴉は、一生けんめい手向かいましたけれど百舌鳥のするどい(くちばし)につつきまわされて、とうとう(なわ)しばりにされてしまいました。

 鷲大王は、鴉を前にひきすえていいました。
「この横着(おうちゃく)もの()。おまえは、ひとの財産(ざいさん)をつかみどりしようとしたな。」
 鴉は、ちぢみあがっていいました。
「それは嘘でございます。鷲さま嘘でございます。」
「またお前は、権兵衛(ごんべい)どんが種まきした畑を、かきあらしたそうではないか。」
「嘘でございます。まるきり嘘でございます。」
「お前はまた、田吾作爺(たごさくじい)が、刈り入れした蕎麦(そば)をつつき散らしたそうではないか。」
「嘘でございます。鷲さま、嘘でございます。」

 そこで、鷲は一段声をつよくしていいました。
「にっくい鴉め、このあいだお前は、小さな男の子が、水におぼれようとしていたのを、助けてやったそうじゃないか。」
「いいえ、とんでもない。みんな嘘っぱちでございます。」
「これ鴉よ、おぬしはこの間、小さな女の子が、馬虻(うまあぶ)()されるのを助けてやったそうだとな。」
「嘘でござい……いえいえ、それはほんとでございます。わたくしは、ごらんの通り、しんせつものでございます。」
「鷲や、カナリヤや、目白や、目黒や、みんな助けてやったとな。」
「ええ、ほんとでございますとも。」
「白鳥の卵をぬすんだのも、ほんとだろな。」
「ええ、ええ、ほんとでございますとも。」

 鷲大王は、家来にいいつけて、鴉をまっくらな牢屋(ろうや)の中へ入れてしまいました。
 梟は、このありさまを見て、
 ホウホウ ウソツキ ホウ
 といって()きました。

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