山の中に
牡獅子は毎日山々を
「こんなものは、いけどりにしよう。」
とその首たまをくわえて、持ちかえりました。
牝獅子は豺の子を見ると、
「まあ、可愛らしいこと。これは、坊の兄弟にして、大きくしましょう。」
といって、子獅子にならべて乳ぶさをあてがいました。
豺の子は、子獅子よりも先に生まれていたので、兄さんになりました。そして、全く子獅子と同じようにして育てられましたので、じぶんが豺であることを忘れてしまいました。
やがて、兄の豺の子も弟の獅子も、ずんずんひとりだちして歩けるようになり、じぶんの力で、餌をとらえることもできました。兎や
ところがある日のこと、森の中を歩きまわっているうちに、象に出あいました。
獅子の子は、たてがみをいからして、
「ぼく前から行くから兄さんはうしろから
と身がまえしました。豺は、
「あぶない。そんな
「大丈夫だよ、兄さん。象なんか恐ろしいものか。さあ、とびかかるぞ。」
「いけない。いけない。そんな大きな象の
兄さんが、
うちへかえった獅子は、お母さんの牝獅子に向かって、
「ぼくはもう兄さんと一しょに歩くのはいやだよ。」
と森でのできごとを話しはじめました。豺はそれをきくと、
「何という
といいました。
「兄さんがいなかったら、何の象一ぴきぐらい、ぼくがひとりでしとめてしまったに。身のほど知らずとは兄さんのことだ。」
と獅子の子も負けずにいいかえしました。
「うぬ、兄さんに口答えするつもりか。もう
「ぼくだって承知できないや。一番組うちしよう。」
あぶなく豺の子と獅子の子は、組うちをはじめようとしました。このようすを、かたわらでじっと見ていたお母さんの牝獅子は、
「
と、豺の子を外へつれ出しました。そして今までのいちぶ
「そういうわけで、おまえはもともと獅子でなかったのだ。それを獅子の子として育てようとしたのが、わたしのまちがいだった。早くどこへでも逃げておいで。弟のつもりで、あれと
といいました。
豺の子は、牝獅子のいうことをきいているうちに、恐ろしさにからだじゅうの毛がそばだちました。そして、牝獅子のことばがとぎれると一しょに、あたふたと逃げてゆきました。
牝獅子は、かなしげな顔つきをして、少しうなだれて、子獅子のところへかえりました。
「さあ、これからはいくらでも強くおなり。象だって何だって恐がることはない。おまえこそ、ほんとうのわたしの子だよ。」
といいました。