ある旅人がありました。
旅人は、大いそぎで、かたわらの木に、よじのぼりました。そして、
ぐらぐらと、樹は大ゆれにゆれ出しました。旅人は、根こそぎにされた木と一しょに、地面にころげ落ちてしまいました。象は鼻をのばして、旅人のからだにまきつけました。
のそりのそりと、象は、もと来た方へ、歩き出しました。象の鼻は、上下に、やんわりと、旅人のからだをささげて、
さて、おれをどうするつもりだろう、――それだけが、旅人の心配でありました。
幾里歩いたか、分からない程遠くまで来ましたとき、森がひらけて、あかるいところに出ました。象は、しずかに旅人を地べたへおろしました。そこには、さきの象よりも、一まわり大きな象が、
さては、さきの象が子であって、この大きな
親象の餌に捉えられてきたのだと思うと旅人は、ふるえあがりました。しかし、もはやどうしても、逃げる手だてはありません。旅人は、じっと大象を見つめていました。すると、左の前足に、木の株がふかく、
旅人は、象の今までのしぐさがよくわかってきました。
大へんうれしくなりました。親象のそばへやって行って、足に刺さっている木の株を、どっこいと、一息に
やがて大象は、鼻をのばして、旅人をもち上げて、森の中へむけて歩き出しました。大象の鼻は、高く森の上へ抜き出ていますので、どっちへ歩いて行くのにも楽々と旅人を運ぶことができました。
旅人はふたたび地べたへ、おろされました。大象は、鼻をのばして、